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平成10年8月2日午前5時30分。早朝にもかかわらず外の空気は蒸し暑く淀
んでいて、ホテルを出たとたんにみるみる汗が噴き出した。ここ東京・神田はビ
ジネスマンの街であり、この時間帯は通行人の姿もほとんどなく、ゴミを突っつく
カラスしか目に止まらなかった。電車の通過音だけが響く雑然とした通りを歩く
と2分足らずで神田駅に着いた。
改札口で『青春18きっぷ』を差し出すと、駅係員は何も言わずに入鋏済のスタ
ンプを押した。これで、この日は全国の普通列車が乗り放題になるのだ。目的
地の静岡県三島市に向けての旅がここから始まった。

機械的なアナウンスに続いて、京浜東北線の電車が滑り込んできた。三島に
行くにはいったん東京駅に行き、そこから東海道線に乗り換えることになる。神
田から東京に行くには、中央線、山手線、京浜東北線のどれでもOKだが、僕は
どうしたわけか京浜東北線のファンで、この日も迷わず京浜東北線に乗り込ん
だのだった。

大学の通信制課程に入学してから、単位を取得するために、スクーリングという
短期集中型の授業に参加することが義務づけられ、安いビジネスホテルに宿
泊しながら授業を受けてきた。
時には大都市に行くことになった。
これにより、一気に活動半径が広がることになる。
東京や仙台などの大都市を訪れて電車や地下鉄を利用するときはいつも感じ
ることがある。
定刻になると少しの狂いもなく電車はホームに姿を現し、客を乗せるとためらい
もなく走り出す。それには一定のリズムのようなものがあり、人間様のほうが必
死にそのリズムに合わせようとしている。まるでアニメ映画やSF小説で描かれ
ている機械文明の中に紛れ込んでしまったのではないか・・・と。
僕が田舎育ちだから尚更そう感じるのかも知れないが。

あるいは、イギリスの有名作家ジョージ・オーウェルの代表作品『1984』の中で
みられる管理社会もこんなものかな・・・と考えたりもした。僕は大学の卒論でオ
ーウェルを取り扱おうと決めていた所だったので、そんな風に考えたのかも知
れない。

僕はその冷たい物体で東京駅まで運ばれ、足早に東海道線ホームの階段を駆
け上がると、幸運なことに静岡行きの各駅停車がすでに停車中だった。
朝食もとっていないので胃の中は空っぽだったが、ためらわずに電車に乗り込
んで、発車するまでのわずかな時間、この日までの僕の半生を振り返ってい
た。



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